絶景かな絶景かな。
春の眺めは価千金とは小さい小さい。
この五右衛門には価万金。
もはや日も西に傾き、夕暮れの花もまたひとしお。
ハテうららかな眺めだなあ。
ハテ……心得ぬ、この鷹のわれを恐れず羽を休むるは……。
うぬ、こりゃコレ此村大炊之助が手跡、血潮をもってしたためしは、ナニナニ、某かねてしめし合わせし通り
久次をおとりに四海掌握を計りしところ、年来の大望むなしく、無念の最後をとぐるものなり……。
すりや、此村大炊之助は事あらわれて生害せしとや。
ヤヤヤヤヤ、我もと大明十二代神宗皇帝の臣下にたいして宗蘇卿といいし者。
本国に一子あり、かたみに添えし蘭奢侍の名香を証拠に尋ね出し、久吉が討ちとって修羅の妄執晴らしてくれよ……。
ヤヤヤヤヤ、すりゃ、此村大炊之助はわが父宗蘇卿にありしよな。われ幼きとき、この地に渡り、武明光秀殿の養育うけ
成長して惟任(これとう)左周五郎、いま世を忍んで石川五右衛門、父のかたみの蘭奢侍も死後の思い出となったるか。
おのれ久吉、父の無念に光秀殿の恨み、たとえこの身は油で煮られ、肉はとろけ骨は微塵に砕くるとも、この無念、晴らさでおくべきか
|